秩父鉄道×西武秩父 「今度からこいつと乗り入れだ。」 吾野駅の草むしりをしていたら、唐突にやってきた西武池袋が、また唐突に話を始めた。 「え?それって、東武東上線と接続してた秩父鉄道?」 「ああ、今度から西武線と接続することになったから、よろしくな!」 池袋が以前下したむさくるしい!という言葉は、まぁ外れてはいなかった。タオルにランニング。金髪に青いコートで華 やかな雰囲気を演出する西武とは相容れない。 (吾野駅には似合ってるけど。) 草むしりの手を止め、ひざに付いた土を払って会釈をすると、秩父鉄道はにこにこ人好きする笑顔を振りまいた。 「ようやく貴様も堤会長の素晴らしさを理解したということだな!」 「あ、そうだな!・・・でも、秩父鉄道が西武秩父線になったら俺はどうすんの!?」 「それもそうだなぁ・・・名称はおいおい考えよう。秩父西武線?うーん、いまいちだなぁ。」 「西武秩父本線はどうだ?」 「それでいいのか、西武秩父。」 「微妙だなぁ・・・いっそ、西武長瀞線とかどうだ?長瀞は知名度高いしさ。」 「うむ、なかなかいいんじゃないか?西武飯能線とかもどうだ?」 「それもいいな!」 「いや、西武秩父に悪いから俺は西武には入れねえよ。」 そのとき、西武秩父の胸にきゅん、としたものが走った。 「気にすることはないぞ、西武秩父の名はそのままで、新入りのお前の名前を変えるから。」 「いや、俺も名前に愛着あるんでね。会長から頂いた名称を大事にするおめえらならわかるだろう?」 「ああ、もちろんだ!堤会長が付けられた名前以上に素晴らしい名前などない!」 「そうだそうだ!会長から頂戴したものこそ最高のものだ!」 「そんだけ自分とこの会長を愛せるってのはいいことだな。」 大口開けて笑う秩父鉄道に、「なんだ貴様、もっと会長を敬わんか!」といつものように語気を荒げる池袋と普段なら 一緒に、いつもの調子で同じように盛り上がれるのだけれど、今日に限ってそういう気持ちにはなれなかった。 「む?どうした西武秩父。今日は具合が悪いのか?いつものような元気がないぞ。」 「いや、そんなことはないんだが・・・」 「無理はするな。…草むしりはまたにしておけ。今日はお前の好きな入浴剤にしてよいぞ。」 「いや、別に風邪ってわけじゃないし、草むしりはやっとかないと後が面倒だし。」 「いうことをきかんか!」 「じゃあ俺が手伝ってくよ。二人でやりゃあそんなに時間かからんだろうし、西武池袋はここに長くはいられないだろ う?」 「うむ。・・・では頼んだぞ秩父鉄道。西武秩父に無理をさせぬようにな。」 「はいよ、お前おかんみたいだなぁ。」 「年長者だからな。では西武秩父、細かい話は帰ってから。」 そういって、嵐のように西武池袋は池袋行きの急行に乗って戻っていった。 「あ、ありがとうございました!」 「ん?いや俺はなんにもしてないけど。とりあえず草むしり終わらせようぜ、うちもすぐ草が伸びるんだよなー、除草剤 とか巻くか?」 「いや、でも猫とか犬が口にしたら危ないし。」 「そうなんだよな、お前いい奴だな。」 豪快に背中をバンバンと叩かれた。背中はひりひりしたけど、それ以上にじんじんして熱い。 (こんなむさ苦しい男が、なんかきらきらして見えるなんて!) 堤会長堤会長堤会長と何十回唱えても、胸のどきどきがとまらない。 |