夢うつつ









ちょっとアレなシーンがあるから大人向けですよ。(念のため)

















 顔を合わせるのも嫌な相手だから乗り継ぎ駅は作らない。
 たとえ乗換えが不便だろうと、西武線ユーザーは顧客にあらず、と思ってもいいくらい。それでもたまには顔を合わせ
なきゃいけないときもあって、しかも、たまには食事にでも、とかいうわけのわからない話になって、しかも迎えにいくか
ら新秋津駅で待っていろとか言われて。
 「西武のいいなりじゃねぇか・・・」
 ポジティブに、西武をアシに使ってやってるんだ!と思うことにして、だいぶ涼しい風が吹くようになった新秋津駅前で
西武を待つ。
 タクシーや、帰宅する乗客を迎える乗用車が次々と現れて次々と流れていく。
 色は黒とか白とか無難な色が多い。車種のわからない武蔵野には、どれも似たような車に見える。それでも、どう控
えめに見ても高そうな車はわかる。まして、オープンカーなんてバブルの遺産みたいなものならば。
そのいかにも高そうなオープンカーが目の前に結構荒っぽい運転で止まったときにはちょっと逃げ出したい気持ちにな
った。
 (いや、まさか。俺にはこんな車に乗る知り合いはいねぇ。)
 いや、いるんだけど!いないと思わせて!あいつならホテルの名前繋がりで日産の車乗るだろうよ!と手を握った
が、予想通り、車から降りてきたのは金髪の男だった。
 「待たせたな。」
 「・・・やっぱりお前だよね、そうだよな。」
 なんかもう怒る程の事でもない気がして、武蔵野は拳をほどいていつものようにポケットにいれた。
 「とりあえず乗れ。お客様の迷惑になるだろう。憎き国鉄の客だが、西武のお客様かもしれん。」
 「おーう。で、何食べんの?」
 「何がいい?」
 「何でもいい。」
 「和・洋・中なら?」
 「中、かなぁ・・・」
 「わかった。」
 このへんにこれ!っていう美味しい店はない。だから新秋津でわざわざ飯食うことは滅多にない。
 「20分くらいで着く。」
 アクセルを踏むと一気に車が加速して、まだシートベルトをつけていなかった武蔵野の体は前にぐっと出た。
 「アホタレ!安全運転できねぇなら車に乗るな!」
 「む?不安なら貴様が運転するか?何しろペーパーでな。どれくらい踏めばいいとかよくわからん。」
 武蔵野の体温はすーっと下がった。ペーパードライバーの運転は仮免の運転の五倍は怖い。なにしろ、全部忘れて
る。
 「この車はどうしたんだよ!」
 「見た目がかっこいいから。」
 買ったのか、借りたのかは怖くて聞けなかった。




 二人で食事をしても別段話すことなんてないと思っていたが、同じ業種で働いてれば共通の話題はまぁまぁあるもの
で、それなりに盛り上がったし酒も進んだ(武蔵野だけ)。
 「西武も話せばいがいと面白いじゃーん!もう一軒飲もうぜー!」
 「私は飲んでいないのだが・・・、うむ、なら私も飲んで支障ないところにいくか。」
 「おうおう、お前も呑め!」
 「じゃあ店を移すぞ。・・・全く、こういう酒で酔わせてって手法は好きじゃないんだがなぁ・・・」
 「あ?なんかいったか?」
 「いや、何も。今回逃すとなかなか飲みにいく機会もないし、仕方ない。」










 のどが渇いて目が覚めた。のどが渇いたり、トイレに行きたくなって目が覚めることなんてなかったから、奇妙に思う。
 ベッドから出した足が空振りしたときに、いつもと違うベッドだと気付いた。
 「あれ・・・?」
 違うベッド、見たことのない部屋、脱ぎ散らかした服・・・
 「うわああぁあぁぁああ!!!!」
 「・・・うるさい、武蔵野何時だと思っている。」
 声がした方をおそるおそる振り向くと、西武池袋がいた。
 「・・・あの・・・これ・・・」
 「やっぱり覚えていないか。いや、悪いとは思ったんだが、いまさら後にもひけなくてな。」
 「・・・まさかと思うけど・・・」
 「体が痛かったら言えよ?今日なら国鉄に頭を下げてやらんこともない。」
 「俺が女役!?」
 「今驚くということは痛くなかったんだな、ゆっくりほぐしたから問題はなかったはずだ。」
 「・・・うそですよね?」
 「嘘じゃないぞ。なんなら証拠写真みるか?」
 にやりと西武池袋が開いた携帯電話には・・・武蔵野の痴態が。
 「いっ、いっ・・・」
 「少し早いがもう出るか。駅まで乗せてくが、どこがいいんだ?」
 「いやだぁぁぁぁぁあぁぁあああぁあぁあ!!」












 「・・・武蔵野、起きてよー武蔵野―。」
 は、と起きると八高がいた。
 「はっ・・・八高!あれは夢だよな!?夢だといってくれー!!」
 「どうしたのさ、武蔵野。それにしても飲みすぎだよ、西武池袋にあとでお礼いいなよ?」
 「へ?なんで?」
 「覚えてないの?昨日一緒にご飯食べたんでしょ?で、武蔵野が飲みすぎて潰れたからって、うちの宿舎まで西武池
袋が車で連れてきてくれたんだよ。しかも、他のJRに見つかると不味いだろうって、僕に電話くれて。こっそり二人で部
屋に運ぶの大変だったんだから!」
 酒でだるい体を起こして軽くラジオ体操みたいな動きをしてみる。体に特に異常はなかった。
 「俺、何時頃帰ってきた?」
 「1時頃だったかな?みんなまだ起きてる時間だったから大変だったんだよ。」
 「なら・・・あれは夢だな・・・うん・・・」
 「なにをごちゃごちゃいってるんだい、さて、今日もがんばってお仕事するよー☆」





 八高が武蔵野の部屋を出て行き、一人になってから、あまりに生々しい夢を反芻した。
 「うっわぁ・・・意識しちゃうじゃん!しかも西武池袋なんかですよ!?」
 携帯の着信履歴に知らない番号が残っていた。きっと西武池袋の携帯番号だろうと思ったけど、冷静に話せる自信
がなくて、また今度と携帯を閉じた。