タバコ嫌いな方にはごめんなさい。





コーヒーショップ











 ちょっと渡したい資料があるから池袋駅前のドトールに来い、というメールを有り難くも頂戴した副都心は文句をいい
つつなるべく遅刻しないように待ち合わせ場所に向かったが、何分仕事中だったので少し遅れた。
 西武池袋と会うのも仕事ではあるのだが、会うことを有楽町には教えたくなくて黙っていたのだ。有楽町は既に知って
いたかもしれないけれど。
 アイスコーヒーを片手に持って地下に降りて探すも、彼はいない。あれ?待たせたから怒って帰っちゃったのかな?と
思って電話する。プルルルルと一回目の呼び出し音で相手は出た。
『遅い!待ち合わせは3時で良いといったのは貴様だろうが!』
「いやーすいません。なかなか抜けられなくて。で、今ドトールついたんすけど、池袋さんいないじゃないですか。」
『あ?いるぞ。3階の窓際。』
「3階?!いいや、とにかくすぐに行きます!」
 あれ、禁煙席は地階だったよな?と思いながら、階段を一気にかけ上る、
 1階、2階、3階。
「遅いっ!」
 他の客の目も気にせず西武池袋の怒声が飛んだ。
「ちょっと書類を渡して簡単な説明をするだけの予定だったのに一時間もまたせおって!もうすぐつく、あとちょっとと何
べん言った、数えてみろ貴様!」
 西武池袋の席にはタバコが山と積まれた灰皿が置かれていた。一時間でこれだけ吸うなら結構なスモーカーだ。
「貴様、何かいうことはないのか、すみませんとかごめんなさいとか。」
「やー…反省の気持ちはあるんですけどね。今ちょっとびっくりしてて。」
「何にだ。」
 新しいタバコに火を付けながら、西武池袋はまだぶつくさと文句を続けている。
「西武池袋さん、煙草吸うんですね。」
 西武池袋のライターを握った手が止まった。
「貴様確か吸うだろう?まさか禁煙化の手先に回ったのか!?」
「回ってないですよ〜今も吸います、ライターお借りしますね。西武池袋さんが吸ってるの始めてみたんで。」
「あー?…そうか、貴様と会うときは西武有楽町も同席することが多いからな。子供のそばで吸ってはいかん。」
 手元にある西武池袋のタバコを盗み見る。セッタのケースが目に付いた。
(結構なものを。)
「営団の新しい奴等はあまり吸わないのに貴様は珍しいな。」
タバコをくわえたまま西武池袋がニッと笑う。子供の表情をしたおっさんだった。
「温故知新ってやつですよ。」
「違うだろ。」
 すぐに間違いを訂正するとかやっぱりおっさんくさい。でも、副都心はそこも悪くないと思った。
「先輩は吸わないんっスよ。」
「そうだな。あれも戦後生まれだから。貴様も戦中戦後のくそまずい煙草は知らないだろう。あ、そうか。営団は銀座以
外戦後生まれだった。」
 それはうまそうにふかす西武池袋をみて、妙にうらやましくなり、副都心はセッタを一本とって火をつけた。
「いただきます。」
 普段吸っているマイセンの5mの倍の味は濃かった。
「どうぞ。」
 コーヒー片手に喫煙なんて、なんておっさん臭いことと副都心は腹から笑いが込み上げた。生まれて一年たたぬ自分
と、見た目なら20代にしかみえない彼。はたからみたらとても若々しいのに。
(本当に手の届かない人)
10mのセッタを持ち歩けないように、この人も自分の手には終えないのだとわかった、悔しいけれど。
「で、書類はこれだけだ。私は先に戻るぞ。」
「あ、はーい。」
机には茶封筒一つと、まだ半分くらい残ってるタバコ。
「西武池袋サーン、忘れ物ですよー」
ひらひらとタバコを持った手を振ると階段を降りていく彼は片目を細めてにっと笑った。
「貴様にやる。」
青いコートを翻してさっていく姿はかっこよかった、池袋のコーヒーショップじゃ似合わないくらい。
「…はー、期待しちゃいますよ?」

荷の重いセッタに火をつけて。





















































(3月19日)
池袋駅東口前のド○ールが大好きです。