| 西武池袋のみ女体化 ノーマルエロありです、ご注意ください! とても真剣な彼女を見た。 彼女はいつでも真剣な顔をしていたけれど、私用携帯を睨み付けるようにまじまじと見ながら、あんな顔をしていると ころははじめて見た。彼女はなにしようとしていたのだろうか、あの携帯電話にはどんな秘密がつまっているのだろう か。 本当は声をかけてはいけない場面だろうけれど、耐え切れなかった。のどから手がでるほど、あの携帯の中身をのぞ きたくなった。 携帯電話を握り締める。文面は何度も考えた。何度も打ち直して何度も構成した。そっけなさすぎても気まずいし、か といって長すぎても重いだろう。放っておけばすぐ長くなってしまうメールがもどかしかった。常に、短めの文章を心が け、普段は誰に対してもそっけないくらいのメールを送るのに、勝手に文章が長くなってしまって・・・少しでも長くてはこ の恋心が伝わってしまうような気がして。 (悟られてはいけない。) 西武池袋の隠した恋心がばれるわけにはいかなかった。誰にも知られたくない、どうか、恋心を伝えることなく、用件 だけを伝えたいのに、なんて難しいことなのだろう。 3通の下書きを作り、一番最適なものを送信しようとした。誰かに、冷静な目で見比べてほしかったけれど見せられる 人がいないので、自分で見比べるより他はない。 一番そっけない、事務的なメールを選んで、目を瞑って送信ボタンを押した。勢い良くボタンを押しては、勢いよくメー ルが届いてしまいそうなので、静かにそっと押した。清水の舞台から飛び降りるような気持ちで送ったメールが、宛先不 明で送り戻されぬよう祈った。3分待っても携帯はならなかったので、無事にメールは届いたらしい。相手がメールアド レスを変えていなかったことに心底ほっとした。携帯をパタンと閉じて目を細める。池袋駅の床だけ見えた。 「いーけぶーくろさんっ、だーれだ?」 きゃっきゃした声が自分のテンションとはあまりにかけ離れていたので怒る気も起きず、西武池袋は急に目を覆った 手をゆっくりとはがした。 「副都心。貴様はまるで子供のような遊びをするのだな。声でわかってしまうのに。」 心なしか声が明るくなる、副都心の他愛もない行動は西武池袋の心のどこかを確かに救っていた。 「おなかすいたんですよー、なんか食べにいきましょうよ。もう仕事も終わりですよね。」 「はぁ?営団の誰かにいえ、私にたかるな!」 「たかってませんよ?たまには僕にご馳走させてください。」 あんまりにもあんまりな、副都心からとは思えない申し出に西武池袋は絶句した。 「いつもお世話になってばかりですし。もし僕と二人っきりが嫌なら東上さんと3人でいかがでしょう?」 東上のことは嫌がるとわかっていた。東上と3人で食事をするくらいなら二人ででかけるはずだと、副都心は確信して いた。 「・・・東上が同席するなら私は結構。」 「なら二人で行きましょう!きまりです!たまには池袋以外でご飯たべるのいいですよおー!」 珍しくおとなしい西武池袋が副都心に引っ張られるがままについてくるのをいいこと、副都心は彼女の手を握って足 早に歩いた。背丈が副都心と大差ない西武池袋でもヒールがあるからそれほど早く歩けない。自然、小走りになる西武 池袋を後ろに感じながら副都心はたいそう上機嫌だった。 「こないだ渋谷でおいしいお店を見つけたんです。絶対に西武池袋さんと一緒に行きたくて!」 二人っきりだから、素直な言葉で言った。副都心線の車両の中で、まだ元気のない西武池袋を元気付けようと、最近 のメトロ内であった面白い話などをした。西武池袋になじみのない路線の話をしても面白くないから、銀座と丸の内や、 日比谷と東武の話、他に小耳に挟んだJRの話などをした。西部池袋は愛想笑いをしながらそれを聞いていた。そもそ も、他社路線に愛想笑いをするくらいなら鉄面のままでいる西武池袋が愛想笑いをしていることがおかしい。それでもと きどきいつもの鉄面皮に戻るのは、きまって有楽町の話のときだった。 「西武池袋さん、先輩と何かあったんですか?」 西武池袋と有楽町の間に何かあったとは聞いたことがなかったし、仕事で顔を合わせている姿も良く見ている。こん なあからさまな態度を取られるのは副都心が生まれてから初めてだったので、思い当たる点などなにもない。ストレート に本人に問うのは副都心の美点であり、ずるいところであり。 「・・・なにも。それで、副都心。わざわざ渋谷につれてくるくらいなのだから、期待していいんだろうな?」 「それはもちろんです、どんな男よりも西武池袋さんを満足させますよ!」 もちろん下半身的な意味合いで、西武池袋をからかう意味合いでいったのだが、西武池袋は笑って流した。そういう ところは大人だった。 「それは楽しみだ。」 駅から少し離れたその店に行くのに、歩けなくはないけれど、デートで歩く距離でもないとタクシーを拾う。タクシーに 乗っている間、西武池袋はずっと外を見ていた。池袋駅付近をまるで自分の家の庭であるかのように歩く彼女は、渋谷 は数えるほどしか来たことがないという。 「乗り入れ先なんだから、渋谷にも来てくださいよ。いろいろ知っておかないと困るかもしれませんよ?」 西武池袋が新木場に行くなんて話は聞いたことがなかった。それは東上も同じことで、埼玉の二路線は都心の方へ 好んで来るタイプではないと重々承知してはいるのだけれど、少し寂しかった。副都心ばかりが池袋にいっておいかけ ているようで。 「乗り入れした以上、僕の路線もあなたの路線のようなものです。」 「私の路線も貴様の路線か?」 「の、ようなものです。」 西武池袋の機嫌はだいぶよくなったようで、そんな話も笑って流していた。 先日、接待で来た際に、おじさん達と来るにはもったいないくらい美味しい店だから、どうせなら美女とゆっくりと食事 をしたいと思った店だった。 「渋谷にしては落ち着いた店だな。」 「渋谷は東急の企業城下町みたいなところですからね。いい店もありますよ。」 「そういえば、メトロの企業城下町はどこなのだ?」 東急という言葉にひっかからず、西武池袋はふと思いついたように問いかけた。 「西武さんの所沢のような?そうですねぇ、どこなんですかね。うーん、JRさんもそうですけど、そういうのはないですか ね。」 「そうか。」 さして興味はなかったのか、個室に案内されて座ると、西武池袋の頭からメトロのことは消えているようだった。 「お酒は飲みます?」 「ああ、冷酒がいい。」 「はーい。」 お酒を頼んで、料理が運ばれてくるまでの間、気まずい沈黙。 先に口を開いたのは西武池袋だった。 「ありがとう」 「へ?」 「一人では渋谷に来ることはなかったから」 にこ、と今までにみたこともないような笑顔(幾分、つくりものっぽかったが、それも礼の現れだったのかもしれない)を されては、副都心は返す言葉がない。 「無論、所沢に勝る場所はないがな、渋谷も十分楽しそうだ。」 仲居さんがもってきた冷酒をおちょこに入れて乾杯、といえば、西武池袋は一気に飲み干した。 先付け、刺身など順に運ばれる料理でくいくい進む西武池袋のおちょこに酒を注ぎつつ、副都心も酔わない程度に舐 めていた。 「美味しいな。これなら、渋谷まできてもいい。」 「でしょう?僕もここの料理は好きです。」 「・・・もう少し飲みたいが、その前に少しメールしてもいいか?」 「どうぞ。」 携帯をいじるのに、わざわざ断りをいれるなど律儀な人だと思った。だが、それ以上に副都心は、西武池袋のメール の相手が気になった。西武池袋はメールを読むと、すぐに携帯を閉じた。 「返信されなくていいんですか?僕は構いませんよ。」 「用は済んだから、もういいんだ。」 またお猪口をもった西武池袋は酒を飲む。 「副都心も、どうぞ。」 飲め、なんていっても男は逃げるのを熟知しているのであろう西武池袋はやわらかい仕草で酒を注いだ。 「今日は良く飲まれますね。自棄酒ですか?」 一瞬、酒に浮かされた西武池袋の目が険しくなった。 「いやなことがあったわけではないけれど、飲みたくなる日があってもいいだろう?」 向かい合わせに座っていた西武池袋は、副都心の隣に移動した。体温が伝わりそうな距離に、逆に副都心の方が緊 張してしまう。緊張ついでに、意を決して今日の本題を切り出した。 「今日、どなたとメールしているんですか?」 くい、とまたいっぱい飲み干してから西武池袋はあっさりとあれほど副都心が知りたかった答えをいった。 「営団の有楽町。」 「どういった内容で?」 「・・・それはここではいえないから、場所を変えないか?」 アルコールで真っ赤に染まった西武池袋のうなじをみて、なにかが頭を支配していくのを副都心は感じた。ゆっくりと、 理性よりもその何かが体を支配していくのを、心地よくすら感じていた。 西武池袋の年齢はわからない。路線としての年齢は知っているけれど、その見た目はもちろん大正生まれなどでは ない。体の年齢は自分と大差ないのだろうか、それとも差があるのか知りたくもあった。 酒に任せて女を抱くなんて、と副都心の理性が馬鹿にしているのを心の片隅で聞いても、据え膳を手放せるほど老成 してはいない。 ホテルの一室で、西武池袋の服を脱がせながら、その肌に触れて年齢を考えた。 「ねえ、西武池袋さん。先輩ともセックスしました?」 「したよ。付き合っていたもの。」 両目をあらわにした西武池袋はためらいもなくいった。 「もう別れて長いから、仕事の付き合いしかないけれど。」 西武池袋の腕が副都心の首に回り、ぎゅっと抱きしめる。やわらかい乳房は華奢な体に対しては大きかった。白い肌 は、想像よりも乾いていた。さらさらとした肌は、少女の肌ではなく、大人の女の肌だった。 「僕があなたと寝ることを先輩はどう思いますかね?」 「さあ?直接聞いてみてはどうだ?」 唇を重ねながら、それでも他の男の話がされていることが互いに奇妙だった。 副都心の手が西武池袋の肌をまさぐり、既に濡れた秘所に指が入ってかき乱して、乱れる西武池袋の体と心に少し でも自分を残そうと生命力を振り絞る。 西武池袋の控えめな嬌声は、気持ちいいのかよくわからない声だったけれど、しがみつく腕と足だけが現実のように 思えた。 白い肌は熱いようで冷たい。同じようなことを西武池袋も考えていた。 (明日、後悔するかもしれない) そんな恐怖を抱えて、西武池袋は副都心の舌を舌でからめとる。 舌と舌を繋ぐ唾液の糸が切れたって、下半身のもっと深いところで体がつながっているというのに、なぜか寂しい気持 ちになる。 「すいませんっ、もうでますっ」 びゅる、と熱いものが体の中に出されたのがわかった。 中だしされたことを真っ先に怒っても良かったが、子を孕む体でもないのだから、余韻に浸るほうが重要であろうかと 西武池袋は目を閉じた。 息を切らした副都心が西武池袋の横に転がる。 「・・・ピロートークはお好きですか?」 「そうだな、即寝よりは。」 「質問しても?」 「それは、明日でいいだろう。」 「じゃあキスでも。」 噛み付くようなキスは、西武池袋の心を満たした。夕方、あんなに暗い気持ちでメールを打っていたことを思い出し て、高らかに笑いたくなった。そして、そのことをいますぐ話してしまいたくなった。 「なあ、副都心。私は、有楽町を愛しているんだ。」 「今も?」 「今も。有楽町とセックスしたいし、キスしたい。手を繋ぎたいし、話したいし、笑いかけて欲しい。」 「最悪のピロートークですね。」 「メールから、そのことがあいつにバレるのが怖かった。有楽町にはもう新しい相手がいると聞いているのに、私ばか りがしがみ付いていると知られたくなかった。」 「だから、僕と寝たんですか?」 「そう。」 悪びれもせずいいきる美女の横面を張り倒してやりたくなった。でも、これだけの美女ならそれだけのことをしてもい い気がする。それ以上に、副都心には西武池袋のようなきれいな女を捨てる有楽町は宇宙人のように思えた。 「僕とつきあってるって先輩にいってもいいですよ。」 「本当に、付き合う?」 冗談のような口振だったから、副都心は西武池袋の体を無理でない程度に押さえつけて、先ほど精液を出したばか りの秘所に指を差し入れた。 「本当に、ですよ。」 西武池袋の肌は大人の肌だった。それを副都心はステキだと思った。有楽町はそう思えなかっただけなのかもしれな い、と白い肌におぼれながら副都心は思った。 (4月3日)タイトルはminuit様よりお借りしました! |