西武池袋のみ女体化です。 山手×西武池袋 越生×西武池袋(とくに描写はなし) です。 大丈夫という方だけスクロールをお願いします。 戦火が激しくなってきた。空襲も多くなって、線路や車両にも被害が目立ち始めた。都心を走る路線と比較すれば、 越生がこうむる損害は小さかったけれど、それでも次第に神経をすり減らす時代がきた。 「大丈夫だよ、いってくるね。」 東上は越生に心配をさせまいと明るい顔ででかけていったけれど、増えていく傷と疲れていく体を隠しきれなかった。 「無理するなよ。」 「うん、越生も気をつけてね。今日は帰りが遅くなるから、八高とご飯食べてね、おにぎりが作ってあるから。」 「おう、わかった。」 営業停止路線である越生が日中することはない、東上のサポートをし、家を守るがせいぜいできることであった。 『ごめんね。』 東上はなんども泣いて越生に謝った。越生が走れないのは自分の力が及ばぬせいだと何度も頭を下げた。そんなこ とはない、と越生は思っていたし、事実不要不急路線にされたのは越生の走る立地から考えれば、東上の責任ではな いのだ。 「こんばんは、越生いる〜?」 「八高!遅かったじゃねえか!」 「うん、ごめんね。ちょっと仕事立て込んじゃって。それで終わらなかったから、越生にも手伝って欲しいんだけどいい かな?」 「仕方ねえな。メシの前に終わらせるぞ!」 「うん、悪いね。」 越生は自身が東上の足をひっぱることに何よりも怯えていた。東上から仕事を言い渡すこともあったけれど、八高も 勤めて越生に仕事を預けていた。男手を戦争にとられて人手不足なのはどこの省庁でも会社でも変わらない。 「明日、うちの職人さんの出征なんだ。」 八高は勤めて明るく言った。そういわなくてはいけない。八高は省線の一員で、戦争を指導しているのは彼の上司達 なのだから。 「そうか。」 おめでとう、とも言わずに、越生は話をそこで打ち切った。本当なら行くなと死ぬなといいたくても、彼らはそれを言え ないし、いえる時代でもない。重い空気だけが湿気のようにまとわりついた。 「僕の同僚は大陸にもいるんだよ。」 「そうだな、でも特急だろ?おまえよりずいぶん上の立場じゃねえか。」 「そうだね、上官っていっていいくらいだね。彼らは僕よりもっと大変だと思うんだ。満州鉄道とかみんな・・・どうしてい るんだろうなぁ。」 作業もひと段落着いたから、と越生はおにぎりを取りにいった。雑穀ばかりのおにぎりだけど、梅干が一個ずつ添え られていた。 「東上は今日遅くなるんだって。俺らだけでくえってよ。」 「東上が遅くなるの?」 「ああ、仕事だろ?」 「東上が、今日遅くなるの。ふーん・・・」 八高は目を細めておにぎりにくらいついた。大きく一口口に入れて、よくかんでから飲み込んだ。 「越生、今晩はお出かけしないか?」 「はぁ?このご時勢に夜のお出かけ?」 「うん、こんなご時勢だからこそだよ!さあさ、早くおにぎりを食べちゃって!池袋にいくからね!」 池袋は、東上のホームではあるけれど、八高にも越生にもなじみはない。越生がいぶかしむ顔をしていると、八高は 唇に手をあてていたずらをする子供のように笑った。 夜の池袋駅はけして治安が良くはない。幼い外見の越生を守りつつ、八高はくねくねと何度も細い道を回って一軒の 民家の前に着いた。そこにくるまでの道順が複雑で、ただでさえ都会になれていない越生はどうやってきたのかまったく わからなかった。 「さて、ここからはこっそりこっそりだから、物音たてちゃだめだよ!」 「はぁ!?」 「だめだめ、そんな大きな声だしちゃ。ほら、こっちおいで。」 八高はもっていた鍵をつかって玄関の鍵を開けた。狭い表玄関に反して、廊下は奥まで長く続いており、広い家のよ うだった。 「こっちだよ。」 廊下を静かに歩く。行灯がときどきついていて、暗いけれど歩けないことはなかった。階段を上り、二階に通される。 「ここから屋根裏にいけるんだよ。」 静かに静かに、足音を立てぬようにはしごをのぼり屋根裏につくと、八高は天井の板を少しずらした。ろうそくに火を ともした二階の部屋が見渡せるようになる。 「絶対に声を出さないようにしてのぞいてみて?」 細い隙間に顔を押し当て下の部屋をのぞく。薄暗い部屋に人が見えた。何をしているのだろうと目をこらす。それは、 越生が初めてみる行為だった。越生が無意識に息を大きく吸い込んだのを見て、八高は声を出されないようにと越生 の口を大きな手のひらで押さえた。 「越生、静かにね?」 目を見開いて八高を凝視する越生を、彼は笑った。しっかりした子だからもう大人かとおもっていたけれど、この様子 を見る限りまだまだ子供であるらしい。 「どうやってセックスするのか、ここでよく見ておきなよ。君も、もう子供ではいられない年になったんだ。」 目は笑わずにやわらかい言葉で八高はまるで諭すように言う。 越生は逆らえず、隙間から見える異世界の行為を凝視した。それがどういう行為なのかは言われなくてもわかった。 けれど、他人のソレを覗き見するのは、童貞には衝撃の強すぎる。 男が女の着ていた着物のあわせを広げた。女がきていたのは戦時中に似つかわしくない鮮やかな青い着物だった。 金色の帯も輝いていて、久しぶりにみる着飾った女だった。帯は装飾的な凝った結びをされていたが、着物をぐちゃぐ ちゃにされてはもうほどけてしまうだろう。男は着物を全部脱がすでもなく胸元と足だけ広げさせ、生足をあらわにさせ た。男の腕が着物の中に伸びる。女の腕が男の首に、まるでしがみ付くように伸びた。 「いつもは気の強い女の人がああやって男に抱かれているのはかわいいよね〜」 それが一般的な男の思想なのか、それすら越生にはわからない。しがみつく女が体をそらす。顔が上を向いて、越生 にもその白い顔が見えた。それは、越生も知っている人だった。明日以降どんな顔をして会えばいいかわからなかっ た。目をそらしたいのに、目をそらせない。 「あんなかわいい女を好き勝手できるんだから、山手はいいよねえ。」 男のほうは顔が見えなくて誰だかわからなかったが、八高の言葉で山手だと判明した。だが、越生にはそれは山手で あろうと、また女が西武池袋であることもどうでもよく、ただその行為自体がまったくの初めてのものであった。天井裏 にまで伝わる隠微な雰囲気に酔ってしまいそうだった。 「八高も、ああいうことするのか?」 「僕?するよ。情事のときの女の人は神様みたいなもので、どんな恐怖も忘れさせてくれるんだよ。」 ろうそくのオレンジ色の灯りが映える白い肌をした彼女が明るい色の短い髪を揺らす様はきらきらしていた。それ以 上に、熱に浮かれた彼女の顔が、戦争の恐怖もすべて忘れたかのような彼女の表情が、男に必死にしがみ付く非力な 腕と対照的に神様のようだった。 「見るのもすきなのか?」 八高は面食らったように呆けて、何をいうのこの子ったら!とおどけた。 「僕は違うけど、見るのが好きな人もいるよ。」 含みを持たせた言い方だった。 一通り見終えた後、顔を真っ赤にした越生は八高の誘導で下に下りた。まだ行為は続いているようだったが、一回戦 が終わったところで八高が越生に帰宅を促したのだった。越生は見失わないように八高の後ろをきっちりとついていっ たはずなのに、灯りひとつない暗闇の中で八高を見失ってしまた。こまりきって、足音を立てぬよう、そろそろと歩く。心 臓の音が高くなりすぎて不安だった。心臓の音が家中に響き渡っているんじゃないかと恐怖にかられる。 (ハトめ・・・どこいっちまったんよ!) 悪態もつけず、半泣きで真っ暗な他人の家をさ迷い歩く。そのとき、弱い明かりの差し込む部屋を見つけた。それが 山手と西武池袋のいた部屋なのかもわからない。ゆっくりとこっそりと、越生は障子の隙間から中をのぞいた。細い線 のような木と木の間から、中をのぞいた。 そこには、越生にとってありえないはずの人物が、さらに奥の部屋に耳をたてていた。 息を大きく吸う。このあと漏れる声を抑えられそうにもなかった。 「っ」 「はい、そこまで。ごめんね越生。」 八高が先ほどと同じように越生の口に手をあてた。 「あれは見ちゃいけなかったのに。」 ふふふと八高は笑う。いたずらを叱る祖母のように、広く温かい笑顔で。 「なあ、ハチ高、あれは・・・」 「うん、あれは東上だね。さっきいったでしょう、僕は違うけどこういう性癖のひともいるよって。」 覗き見たときの東上は、越生のしっている東上ではなかった。やさしくて、母のように姉のように越生の面倒を見てく れた、あの東上ではなかった。一人の「男」だった。 「東上もね、西武池袋を好きにならなければこんな趣味に目覚めなかったかもしれないのにね。西武池袋が悪いわけ じゃないけど。」 八高が越生の手を握って歩き出す。今度は絶対にはぐれてしまわないようにしっかりと。 「あれも東上の一部なんだよ。」 母とも姉とも、父とも兄とも慕っていた東上の男としての一面をみて、越生は大人の会談を一歩のぼった。 「ひとつ成長した越生のために、ひとつ贈り物を用意してあるよ。明日渡すね。」 八高は越生を、東上と住む家まで連れて帰った。少年が、大人をどんな顔をして迎えるのか、とても興味があったけ れどそこまでいるのは無粋だろうと早々に帰った。 越生がすがる目で八高にもう少しいるようにいったけれど、八高はやんわりと断った。彼は今からひとつ用事があっ たから。 八高は翌日再び現れて、越生を昨日と同じ池袋の家に連れて行った。 「なあ、なんなんだよ、俺もうあの家行きたくねえよ・・・」 「大丈夫、今日は東上はこないよ。これから僕と約束してるしねえ。それに、今日は僕は付いていけないから、一人で 行くんだよ。」 がらりと玄関が開いて、西武池袋が不機嫌な顔で出てきた。 「入るのか、入らないのかさっさとはっきりせんか。」 今日は黒い着物を着ていた。赤い襦袢の映える、金の花が豪華な着物だった。 「はいはい、越生はやくはいって。西武池袋の気が変わらないうちに。」 化粧をしている女性がすくないこのご時勢に、白粉をはたき紅をひいた西武池袋は毒々しいほどに妖美だった。 「・・・はいる。」 西武池袋は越生を一瞥すると家の中に戻っていった。手をひらひらと振って、ついてこいと指示する。 「じゃあ、またあとでね。」 帰っていく八高に、助けを求める声をかけようとして越生はやめた。 彼はまた大人の階段をのぼる。 越生はふわふわした足取りで池袋の家を出た。 迎えに来た八高の顔を見れず、うつむいたままあるく。 「西武池袋はどうだった?東上が好きになるほどいい女に筆おろしをしてもらえてよかったね。」 そのとき、はじめて越生の胸に痛みが走った。たった一人の家族の恋情の相手と情を交わしたなどと、とても正視で きる現実ではない。 「大人の世界はどうだった?」 大人の世界は、越生にとってよい感情をともなうスタートではなかった。だから、素直に答える。 「大人にはなりたくないな。」 子供のままでいたいと、越生は真剣に願う。けれど、八高はそれを一刀両断する。 「そーお?でもそんなこといえないよ、君はもう大人の仲間入りしちゃったもの。」 大人の世界 (4月7日) |