副都心×西武池袋→有楽町(消せない差、消せない愛)の続き 注意 西武池袋が女体化です。 生理に関する描写があります。 朝、昨夜の想像通り後悔した西武池袋はまだ眠る副都心をベッドにおいたままホテルを出た。 どうせならば朝食を食べてから渋谷を出ても良かったのだが、なるべく東急の連中と顔を合わせたくない西武池袋は まだ始発の出ない街でタクシーを拾って池袋に向かった。 オレンジ色の街頭が白い空に目立たない光の量でたたずんでいる。ひんやりとした空気と白い空はとても調和してい るので、西武池袋は運転手に断ってから窓を開けた。 夜にはあれほど綺麗で、存在感のあった街頭が弱弱しく光っていてまるで世代交代のように見えた。タクシーは街頭 の並ぶ道をずうっと走っていく。 この池袋と渋谷を繋ぐ道路の名前を西武池袋は知らない。西武池袋が池袋と渋谷を繋ぐ路線として知っていたのは 山手と埼京だけだったのだが、副都心がきて一変してしまった。西武池袋の大切な車両が渋谷の地を踏む。それでと ても誇らしい気持ちになって、少し舞い上がっていたのだと西武池袋は自分を冷静に判断した。 有楽町との接続で新木場までいけるようになった。永田町や桜田門、銀座一丁目に月島。西武池袋では絶対にいけ ない地域に有楽町は西武の車両を連れて行ってくれた。そのときも同じように、西武池袋は鉄面皮の下で浮かれあが っていつもならばしないような失態を犯した。それが、有楽町と付き合った幸せなひと時だった。 乗り入れしたくらいで恋に落ちない程度には西武池袋に耐性が出来ていたけれど、一晩足を踏み外す程度のことは まだ耐性が出来ていなかった。 いつも通りに業務を開始して、朝のラッシュを無事に終わらせると西武池袋は池袋駅の事務所で事務処理を始め た。業務日報のチェックをし、今度のイベントの把握をして他社にメールを出す。 最初は苦手だったパソコンに向かい合うのにももう慣れた。パソコンが導入し始めた頃には既に西武池袋と有楽町 は別れていたので、有楽町ならパソコンを扱えるとわかっていても聞けず、若い分電子機器に比較的強い西武秩父を 捕まえて何度も何度も聞いたことを思い出す。西武秩父は「新しい男を見つけて教えてもらいなよ。出来たら電機メーカ ーにお勤めの方。」なんて茶化していたけれど、西武池袋はその頃も今も有楽町が好きなので冗談に笑い返しもしなか った。 目が疲れたので少し休憩をしようと、冷蔵庫の中から買い置きしてある缶のアイスコーヒーを取り出して開けた。他の 面々がいれば甲斐甲斐しく面倒を焼くわりに一人のときは大雑把で、缶コーヒーはスーパーで安売りの際に1箱買って きたものだ。 一応来客用にと置かれているソファに深く座って、西武池袋は何気なく携帯を見た。有楽町からの連絡を期待してい ないわけではなかったが、期待しても裏切られることをこの数十年にようやく覚えていた西武池袋はそれよりもむしろ業 務連絡が他の西武線から来ていないかと思って携帯を開いたのだった。 『新着Eメール一件』 画面に表示されたお知らせにも大して期待をしなかったが、メールフォルダの新着お知らせマークを見て心臓が高鳴 る。有楽町用メールフォルダに未読一件となっていて、西武池袋は深く息を吸って携帯を一旦閉じた。 有楽町からのメールなど今はもう少ないどころか滅多にない。仕事の連絡はパソコンのメールに送られてくるし、電話 で話す際も会社の固定電話にかかってくる程度だった。急ぎのようで携帯に連絡があったとしてもメールが続くことはな い。昨日のメールは仕事の件の補足事項だったから送られてきたもので、西武池袋の返信に翌日また返信が来るな どとはとても思えなかったのだった。 西武池袋は高鳴る胸を押さえた。妙な期待がある。副都心と寝たことを知ったのだろうか?それならばとても嬉しか った。それを知って、何か反応してくれるのならばとても嬉しいけれど、副都心はおそらくそういう男ではないだろうと西 武池袋は見立てていた。馬鹿な男ではないから、西武池袋の思惑通りには動かないだろうと、そこが気に入っていた のだ。 ようやく開いた文章には仕事の件に関する礼がかかれていて、それだけでも西武池袋はどきどきしたのだが、文末 の『よかったら、今日ご飯食べない?』という誘いに体が固まった。もうどうしたらよいのかわからない。メールを受信し ていたのは既に30分前だったから、今すぐ送ってもがっついている感じはしないだろうと、何度も推敲しながら承諾のメ ールを送った。 メールを送ってから、西武池袋はあわてて池袋駅に置いてある私服を調べた。コートで出歩いても良いのだが、私用 のときはなるべく私服で出かけるようにしていた。特に昨日や今日のように男とでかけるとき、あの青いコートのせいで 他路線に見つかってホテルに入るときなど見られるのは想像しただけでも会長への顔向けができない。 簡単な作り付けのクローゼットの中には替えのコートやワイシャツなどと数枚の私服がしまってある。昨日1揃え使っ てしまったから、今はパジャマ代わりのジャージしかない。所沢駅の自宅に戻ってもよかったが、今戻って緩んだ顔を他 路線には見られたくないので、西武池袋は財布を持って西武百貨店に向かった。 ブルーグレーのティアードワンピースと白い9cmのサンダルを買い、クレジットカードで支払いを済ませた。後からバッ グがないことにも気付いて、前から気になっていたハイブランドのバッグをいい機会だからと購入した。気合が若干入り すぎているけれど、あまりに嬉しくて、反省したことも後悔したことももう忘れて西武池袋は舞い上がっていた。 これなら金髪はさしおいて会社帰りのOLのように見えるだろうからと、終業後西武池袋は早速着替えた。持ち歩いて いるネックレスを付け、待ち合わせの時間までまだ少し余裕があったから、仕事に差し支えのない色のマニキュアを塗 り、丹念にメイク直しをした。 気合の入った西武池袋はかなり綺麗になる。高い身長にかかわらずさらに高いヒールの靴を履いたスタイルのいい 西武池袋が姿勢よく歩く姿は、女でも振り向くほど目を引いた。当然、有楽町もすぐに気付く。有楽町と並ぶと、二人は 目が同じ高さにあった。 「おつかれさま。ごめんね、急に誘ったりして。」 「構わない、今日は特に用事もなかったし。」 その場で話すのもなんだから、ご飯食べにいこうかと、有楽町に案内されるまま西武池袋は後ろをついていく。 「西武池袋は好き嫌いなかったよね。」 他愛もない話をしながら歩いていて、携帯が鳴ったのに気付いてディスプレイを見た西武池袋はその着信を無視し た。 「電話?でなくていいの?」 「いい。」 有楽町は深く追求してこなかった。ディスプレイに表示された名前は副都心だったから、なんとなく後ろめたくなって、 西武池袋は携帯をバッグの底に押し込めた。 夜は西武池袋の予想よりもさらに期待を満たしてしまって、こんな夜を再び期待してしまう不安が生まれてしまうほど だった。 軽く飲んだあと当然のようにホテルに流れて、当然のようにセックスした。たいした誘い文句も口説く熱意もなかった のに、至極簡単に抱かれる自分をなんて安い女だと西武池袋は自虐したけれど、喜ぶ体は昨日男に抱かれたばかり とは思えない程に乱れておおいに有楽町を喜ばせた。 冷たいシーツの乾いた触感が時折西武池袋を現実に引き戻す。けれど、引き戻されるたび体を深く貫かれてまた泡 沫の真っ白い快楽の中に戻されてしまう。何も考えられない幸福の中で愚かなケモノのように声を押し殺しもせず漏ら して、縋るものを求めて有楽町にしがみ付いた一時間程度のセックスは、まるで一瞬のようにまるで永遠のように西武 池袋の体に刻まれた。数十年ぶりの有楽町とのセックスだった。 至福のひと時が終われば有楽町はするりと体を離して冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。酔いがだいぶさ めてきてしまった西武池袋は自分がシラフに戻ってしまうのが怖くてビールを飲んだ。先ほどまで西武池袋の体を強引 にまさぐっていた手はもう遠い。 「・・・彼女はどうした?」 とても気になっていたことを、西武池袋は肌を合わせた気安さから尋ねた。セックス前に聞くなど無理だったので、こ の微妙な空気のなかようやく聞けたのだ。 「別れちゃったんだ。」 有楽町が浮気をするような男でないことは、西武池袋自身よく知っていた。どんなに相手に冷めていようと、不実は絶 対にできない男だった。 「そうか。」 なら、私とまた付き合わないか。そういいたかったが、西武池袋はそれを言ってしまう程無分別な子供ではなかった。 別れたのに、お付き合いという手続きをとらずにセックスしたことは、有楽町にその気がないことを明確に示していた。 「・・・そろそろ帰る。」 「泊まっていかないの?」 「昨日も池袋に泊まったのだ。今日は帰らないと心配させてしまう。」 有楽町は、仕事だと疑わないようだった。西武池袋に興味のないその態度に、西武池袋は落胆するとともに悲嘆し た。とてもとても愛しているのに、誰よりも愛しているのに。 「貴様も女遊びはほどほどにしろよ。じゃあな。」 手早く服を着て部屋を出る。送っていくよという申し出を丁重に断って、有楽町が服を着る前に急いで部屋を出た。 足早なヒールの音を廊下のじゅうたんがもみ消す。逃げるように早く勢いよくエレベーターのボタンを押した。エレベー ターに乗り込んでドアがしまった瞬間涙が出た。静かにこぼれた涙をハンカチで拭いて、なんともない顔でフロントを通 り過ぎる。 ホテルを出て、道路に出ると、涙はもうどうしようもなく止まらなくなっていた。声は上げずに、だらだらと涙がこぼれて いく。化粧も服も靴も、すべてが台無しになった夜だった。都合のよい女と扱われたのに、また誘われないかと期待して いる自分に、西武池袋はとてつもなく腹が立った。その怒りでまた涙が出る。今度は手の甲で涙をぬぐった。マスカラや アイラインが溶けて酷いことになっているだろうけれど、それが自分には似合いな気がして、ぼろぼろの顔のまま西武 池袋は夜の街を足早に大股で9cmのヒールの靴音も高らかに歩いていった。 ベッドに入って散々泣いた。散々泣いて腫れた目を隠すために皆よりも早く出勤し、午前中は池袋界隈での業務に終 始した。その夜は涙も枯れ果てて崩れるように眠った。 そして、有楽町と寝た次の日の夜に生理がきた。安心するとともに、一度生まれ変わったような気持ちになった。月に 一度再生するように排出される血の塊がトイレの水に落ちたのを、西武池袋は呆然と眺める。 きっとその血の塊の中には有楽町の精子も含まれていたのだろう。無駄になった命の片割れは今も水の中で卵子を 捜してうごめいているのだろうか。自分のような女に出されことからして既に無駄遣いなのに、と西武池袋は小さな命が 少し哀れになった。自分を哀れまないための、方便のような憐憫だった。 西武池袋は生理痛が重いほうで、翌日は痛み止めを飲んでようやく仕事に立っていた。それを知る西武秩父がラッシ ュ時を除き、西武池袋線の面倒も見、西武池袋自身はデスクワークに日中を当てた。 温かいお茶で体を温めようとお湯を沸かしていたところ、事務所のドアをこんこんとたたく音がした。もしや有楽町だろ うか、なんて胸を躍らせながらドアを開けるとそこには副都心がいた。有楽町はめったにこないので、副都心のほうが 来る回数が多いといえば多い。あまり珍しくはない来客だった。副都心に椅子をすすめ、西武池袋自身は座り心地の 良いソファに座った。。 「こんにちは。今日は西武秩父さんが線路を見てるんで、なにかと思ってきたんですよ。具合でも悪いんですか?」 「・・・大いに悪い。」 「どうかしました?理由によってはお見舞いとかお世話とかしますよ?」 笑う副都心が面倒くさかったので、西武池袋は隠しもせずストレートに生理痛だといった。 「痛み止めを飲んでいるがそれでも痛い。だから、つらい日はラッシュ時以外西武秩父に手伝ってもらっている。」 副都心の分もお茶をいれ目の前に差し出すと、どーもといって飲んだ。 「西武池袋さん、今二日目ですか?」 「ん?まあそうなるか。」 「僕、生理中の女性とセックスしたことないんですよ。」 「生理中は常識的にセックスを避けるもんだしな。」 お茶請けにはあわない話だなぁなんて思いつつ、女性だからそういった話をどうとも思わない西武池袋はお茶を少し ずつ飲んだ。温かいものを飲むと痛みが柔らぐと教えてくれたのは誰だったのか。 「ねえ、今からしません?」 「なにを。」 「だからあ!セックスしましょうよ!とってもやってみたいんです!」 不快に西武池袋が顔をしかめるのも構わず、副都心は西武池袋が座っているソファにすべるように座って隣に並ん だ。 「ソファ、僕が買い換えますよ。」 西武池袋のコートのボタンを器用に脱がす手を、西武池袋は払えなかった。副都心に触れられて体の力が入らず、 ふわふわと、まるで副都心の手を待ち望んでいたかのように体が反応してしまっていた。 「いやっていうならやめますけど。」 首筋をべろりとなめられて、西武池袋の体が震える。有楽町のときとはまったく違う快感が背筋を駆け抜けて嫌だと いえず、西武池袋は副都心の体にゆるく手を添えた。 「・・・最後までしちゃいますよ。」 ナプキンを当てた下着を副都心が脱がす。スカートの合間から落ちたそれはだいぶ血液を吸って赤黒くなっていた。 それを目の端にとめて、西武池袋は息を飲む。見られたくなかったので、とても小さな仕草で。 血で濡れた箇所を副都心が指で触れて、ゆっくりと中に割っていく。生理中のセックスは西武池袋も初めてだったが、 思いのほか普段と別段変わることはなく、あっさりと受け入れる自分の体にあきれ果てた。 血の匂いが部屋に立ち込める。西武池袋にとっては毎月の慣れた匂いだが、副都心には当然慣れない匂いだった。 服を着たままソファの上で結合して、荒い息の副都心を見上げる。西武池袋も相応に呼吸を乱していたのだけれど、 そんな副都心がとてもいとおしく見えたのだった。もう年をとった自分の体にこれほど欲情してくれる男がいることをとて も幸せに思った。有楽町も抱いてはくれたけれど、何かが違う。その何かが愛情だとは思いたくなかったので、西武池 袋は副都心から目をそらして体にしがみ付いた。 副都心が射精してしまえば行為は終わる。満足した西武池袋はだるい体でゆっくり下着を見につけブラジャーをつけ なおし、ワイシャツのボタンを留めた。熱いので、ワイシャツの一番うえのボタンとコートのボタンは留めない。副都心も 同様に、ベルトはしめたがワイシャツのボタンを留めようとはしなかった。 「気持ちよかったです。」 西武池袋を抱きしめて、副都心がしがみ付くのを暑いからと西武池袋は払おうとしたが、それより強い力をこめられ て、仕方なく腕の中に収まる。くっついてしまうと余計暑くて不快なのだが、副都心は一向に介さないらしく、西武池袋の コートで見えない部分にキスマークを残した。 「ぬるぬるしててきもちいいです。あと、血のにおいがすごくだめなことをしている感じがして興奮します。」 小さく囁くような声は、疲れているからなのかわざとなのか。どちらでもいいのだが、耳にかかる息がくすぐったくて気 持ちよくて、西武池袋は身をよじらせた。 「血の匂いも、人身のときと違う匂いですね。排泄物の血の匂いだ。」 「・・・嫌ならば、ここから出ればよかろう。」 「嫌とはいってないですよ。ただ、そう思っただけで。」 西武池袋はそこで、昨夜考えた有楽町の精子のことを思い出した。もしかしたら、副都心と有楽町の精子が自分の 中で戦ったのだろうか。そのときばかりは、有楽町が自分のために何かをしてくれたのだろうか、なんてぼんやりと考え る。 ソファが血で汚れてしみになってしまったことなど、とてもどうでもいいように思えた。あとで新しく買えばいい。若い男 のその場限りの約束に期待するような年ではない西武池袋は、副都心の腕からようやく開放されたとき、もうソファの 始末のことばかり考えていたのだ。 後日、本当にソファを買ってくれるという副都心につれられて家具屋に行き、新しいソファを選んだ。終始副都心にあ れやこれやといわれた西武池袋は面倒になって副都心に「お前が金を払うのだから、お前が選べ。部屋に入るものな らなんでも構わん。」と丸投げした。 時間をかけて副都心が選んだソファは、西武池袋しか基本的には利用しない小さな事務所には不釣合いな上質なも のだった。二人がけの黒のソファは本革張りで、納入までに一ヶ月かかるという。なんでもいいから数日以内に欲しか った西武池袋としては不本意だったが、なくて困るものでもないのでなんでもよかった。 「ねえねえ、西武池袋さん。これ僕が買ったんですから今度座りにいっていいですよね?」 副都心が、自分の答えを気にするとも思えなかったので、西武池袋は好きにしろといった。どうせ好きにされるのなら ば、最初からそういってしまったほうが気が楽なのだ。 「また、この前みたいな使い方しましょうね。今度は汚さないように。」 西武池袋はとても疲れていた。有楽町を追い求めるのも、副都心を追い払うのも。だから、この若い男のいいように されるのだろうと予想がついたが、あまり悪くはなさそうなので笑って返した。 有楽町が胸の中で少し小さくなっていって、もう誘われても行かないようにしようと決めた。あの日、着信履歴を無視し たことに罪悪感をもったときからもう答えは出ていたのだけれど、ようやく副都心に決めようと思ったのだ。 タイトルはminuit様からお借りしました。 (6月8日 リクエストだというのに趣味に走っていて申し訳ありません!もしお気に召さなかったらいってください、書き直しますので・・・) |