はなびらのなみだ
書類をお渡しした後、いつものように武蔵野は頭を下げ無言のまま、会長の邪魔をしないように執務室を辞そうとし
た。
「・・・おい、武蔵野。」
お声をかけていただいて武蔵野は飛び上がった。ばくばくする心臓を抑えながらはい、と答える。いかがなさいました
か、と。
「お前たちのようなものでも女は抱くのか?」
「はい、経験はあります。」
こんな話がなぜ会長の口から出るのかわからず、それでも西武池袋はお待たせしないよう間髪いれずに答えた。西
武池袋は男を性的対象とする趣味趣向があったが、まったく経験がないわけではなかった。
「妻はもたないのか?」
「多くの女性方とは時間の流れが異なりますので。」
これは言い訳半分、本当半分といったところだった。パートナーを望んでも、西武池袋とともに生きてくれる相手は同
じ鉄道路線にしかおらず、西武池袋は他路線に手を出したことはなかった。
「そうか、下がっていいぞ。」
深々と頭を下げて武蔵野は執務室を出る。重厚な扉を静かに閉めてから質問の意味を何度も反復したが意味はよく
わからなかった。
理解力のない自分の頭を呪うが、めったにお声を頂けない会長からのお話がなぜ女のことであったのか武蔵野には
さっぱりわからない。
鉄道には男性が多く、女性は圧倒的に少ない。同じような地域を走る路線では西武鉄道に女がいると聞いてはいた
が、女に興味のない武蔵野からしてみればまったく食指の動かない話ではあった。
社名が西武に変わると聞いて武蔵野は腹をたてた。まして、倒産しかけた西武鉄道を買収するのに、こちらが社名を
変更するのだという。まったく納得のいかない話にいらいらと歩きながら、それでも武蔵野は西武鉄道の面々との顔合
わせに出向いた。拝島を伴っているが、こちらも不機嫌な顔で武蔵野のあとをついて歩いていた。
「おい、こっちだ。お前らも新しい名前になるんだ。お互い新しい名前で紹介しあえ。」
社員に言われて西武池袋となった彼は新しく加わる西武鉄道の面々のうち代表としてきていた西武新宿と西武国分
寺を初めてまじまじと見た。長い黒髪の女がこれまた長い黒髪をくくった長身の男を連れて頭を下げる。
「・・・お久しぶりです。今度からは同じ会社になりますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
鈴を震わすような高くて細い声に西武拝島は息を飲み、西武池袋は不機嫌に一瞥した。西武国分寺が後ろから西武
新宿を守るようにたっている。それも西武池袋は気に入らなかった。
「よろしく。」
微妙な雰囲気は読み取りつつ、社員が思い出したように声をかけた。
「あ、そうそう西武池袋。西武新宿に関して会長からお言付けがあるぞ。嫁を買ってきたぞ、だそうだ。何か話がいっ
ているか?」
西武池袋は目を見開いて西武新宿を見た。西武新宿は既に話を聞いていたらしくあわてることもなく、伺っております
と綺麗な声で答えた。その綺麗な声がまた西武池袋の気に障る。
「私は西武池袋の妻にと買われました。ついでに、他の西武路線も全て。」
澄んだ声なだけに、事実を淡々と述べる声は部屋を冷やした。社員は場の空気を嫌ってさっさと退散してしまうし、残
された4人は続ける言葉もなく沈黙が流れた。それを破ったのは国分寺だった。
「あーっと、今後は同じ会社になるんでよろしく。新宿は俺の妹なんだけど、何かと言葉が足りないところがあるんで許
してやってください。」
人懐っこそうに笑う西武国分寺はとても西武新宿の兄には見えないが、半分は血が繋がっているのだという。
「まー、とりあえず新居につれてってもらえないかな?俺ら荷物持って前の宿舎出てきちゃっててさ。泊まるところない
んだよね。」
「そうか、大変だな。お前たちの部屋も用意してあったんだ。こっちこっち。」
あまり人見知りしない西武拝島が西武国分寺達を手招きする。西武新宿もするりと前に出た。華奢な体は鉄道にふ
さわしくない、と西武池袋は思う。大変な仕事だ、肉体労働接客業。旅客輸送のどの部分をとってもこんな華奢な女に
は勤まらないだろうと思った。彼女は現に鉄道として働いているのだけれども。
「西武新宿はー・・・どうするんだろう。ほら、それぞれの部屋に名前が書いてあるんだけど、西武新宿のだけないん
だ。」
ドアが並ぶ宿舎の廊下をぐるりと見渡して、「夫と寝ろ、ということなのでしょうね。」とさらりと西武新宿がいったので、
周りにいた男衆の方が赤面してしまう。
「荷物はこれだけですので、それほど邪魔にならないかと思います。置かせて頂けますか?」
西武新宿の手には一泊旅行に行く程度のボストンバックがあった。それだけが荷物だという女が信じられず、西武池
袋はバッグと西武新宿の顔を交互に見る。
「とめてやれよ。こんな可愛い子もらったんだぜーうらやましいっての!」
西武拝島が下品に笑うのだが、先ほどの西武拝島の様子から見て彼が西武新宿に悪くない感情を抱いていることを
読み取った西武池袋は固辞した。
彼女をなんとも思わない自分より、西武拝島の方が西武新宿を幸せにしてやれるだろうし、自分の面倒もない。そう
思って西武新宿を西武拝島の部屋に行かせようとしたのだ。
さとい西武新宿は西武池袋が自分を好んでいないことに気付いたけれど、そういうわけにもいかなかった。なぜなら。
「会長は私を西武池袋に、とおっしゃいました。」
瀕死のふちで救ってくれた神のような人。名前を残してくれた寛大な方。西武新宿は会長の命令をたがえるわけにい
かなかった。もしかしたら、会長は西武拝島と西武新宿がくっついてもなんともいわなかったかもしれないが、二人にと
って命令がすべてなのでそういうわけにもいかないのだ。
「・・・そうだな。私の部屋に来い。」
前を歩く西武池袋に西武新宿は粛々とついていく。歩くたびに長い黒髪がさらりと揺れた。
その夜、西武池袋は布団を二組引いて寝た。西武新宿はなにかいいたげだったけれど、西武池袋は無視して背を向
けて寝た。
西武新宿も戸惑いながら布団に入り、しばらくすると小さな寝息が聞こえ始めた。驚きばかりで疲れていたのだろう、
西武新宿が眠ってようやく西武池袋は安心して眠りにつく。それは優しさというよりは警戒心からのものであった。
翌朝、西武池袋が目を覚ますと部屋に西武新宿は既にいなかった。布団はたたまれて端に寄せられていた。その横
に西武新宿が持ってきたボストンバッグが置かれている。
一瞬逃げられたと思った西武池袋は心底ほっとした。寝巻きからワイシャツに着替えて居間にいくと、西武新宿と西
部拝島が朝食の支度をしていた。
「あ、おはよう池袋!」
「おはようございます。」
ワイシャツの上からエプロンをかけて髪をひとつに結んだ西武新宿は台所にたって朝日を浴びているせいか、昨日の
夜よりもずっと顔色がよく健康そうだった。華奢なイメージはぬぐえないがか弱そうではない。
「今日は僕が朝食当番だったんだけど、そんな話新しい奴らに説明してなかったじゃん?西武新宿が気を使って早起
きしてくれたんだ。」
「いえ、逆に気の使えない兄たちで申し訳ありません・・・」
ちょこんと頭を下げる西武新宿と、それに照れる西武拝島の組み合わせは西武池袋からみて似合いの二人だった。
自分がいなければ二人でうまくいくだろうに惜しいと思う。
「いまお持ちしますのでお待ちくださいね。新聞どうぞ」
「ああ。」
座った西武池袋の前に西武新宿が新聞を差し出し、すぐにお茶も持ってきた。
新妻としてパーフェクトな控えめな態度に加えて、朝食の味も悪くなかった。西武拝島はべた褒めしていたし、他の路
線たちも口数すくなに西武新宿に声をかけていた。西武新宿は控えめに笑い返すが、昨夜の能面のような顔を思え
ば、だいぶ喜んでいるのだろうというのは察せた。本当かどうかはわからないけれど。察しただけだけれど。
西武池袋と西武新宿はそれからも同じ部屋で何夜も過ごしたけれど、二人の布団の間には深い溝があって、西武池
袋はそれを越えようとしなかったし、西武新宿には越えられなかった。
「西武池袋はどのような方がお好みですか?」
二人でいる時間にはもうなれて、二人っきりの寝室でも互いに緊張はしなくなっていたが、ふいな質問に西武池袋は
いささかうろたえ、間をおいてイライラした。
「それを聞いてどうする?」
西武新宿は寂しそうな顔をした。並みの男ならば優しい言葉をかけずにはいられない風情をみても西武池袋は何も
思わない。これだから女は、と余計機嫌を悪くするばかり。
「・・・では、どのような髪型がお好きですか?」
西武新宿の髪は黒く長い。仕事中は一つにくくっている髪も寝る前は解いてさらりとたらしている。時間も手間もかか
った、彼女の自慢の髪なのだろうと西武池袋にも容易に想像がついた。
「聞いてどうする?」
「さあ、それこそ聞いてどうするのです?」
西武新宿が西武池袋の言葉を伺い追随するだけの女ではなく、何かと言い返す女だとは生活をともにしてわかって
きていた。それは笑って受け入れられるときもあり、そうでないときもあり。今回はわりと気に入ったので、西武池袋は
反論をひろげることなく好みを伝えた。
「ショートカットの金髪。」
その見事な黒髪にはムリな要望だろうとわかっていた。わかっていたから、西武新宿は絶対にしないだろうと思って
西武池袋は口にした。女に興味がないわけだけであって、同僚である女に無体をいうような酷い男でもないのだ。
「さようですか。」
「あと、その口調なおせ。同じ会社で一応夫婦ってことになってんだからもっと砕けた話し方をしろ。」
「・・・そういうもの?」
「そういうもの。」
ふうんと西武新宿は興味がなさそうな気の入ってない返事をした。
そういえば彼女は明日休みだったな、と西武池袋は思い出す。西武拝島がデートに誘っていたのも目撃したのだが、
『同系統で二人一緒に休むと大変だから』と至極全うなことをいって西武新宿は断っていた。
西武新宿は他の人間に見られぬよう気を使っていたようだが、ばれるのを気にしない西武拝島が相手では気をもむ
だけ無駄だと、少しばかり西武新宿に同情する。
「・・・明日も早い。電気を消すぞ。」
「はい。」
電気を消すタイミングはいつも西武池袋が決めていて、西武新宿は口を出したことがなかった。翌日は休みだという
のに、西武池袋に付き合って眠りにつく。
西武新宿が他に男を作ってくれれば楽だと西武池袋は常々思っている。西武拝島でもいい、他社路線でもいい、普
通の人でもいい。とにかく他に相手を見つけてくれれば、西武池袋も心置きなく他の相手のところにいけるのだ。西武
新宿が妻として従っているのによそにいけるほど西武池袋は器用な男ではない。
「おやすみ。」
「おやすみ。」
どちらからともわからない眠りの挨拶にどちらともなく返事をして眠りにつく。豆電球の淡い光が背を向かい合わせて
眠る二人の奇妙な習慣を映し出すけれど、向かいあって眠ることはどうしてもできない二人だった。
翌日、西武池袋が仕事を終えて帰ってくると居間が騒がしい。うるさいなあと思いながら部屋に入ると、数人が一人の
金髪頭を囲んでいた。背の低い金髪なんていたかな?と思って西武池袋はたいして気にもせずその相手の顔を改めて
みる。
「・・・西武新宿?」
「ああどうだろう、似合うか?」
長い黒髪をざっくりと切り落とし男のように短くなった髪は金色に抜かれていた。そうすると同じ会社といわれてまった
く違和感がなくなる。他路線は好意的に受け入れているらしいが、綺麗な髪だったのにと惜しむ言葉を口々に言う。
「いいんだ。会長の路線になれたんだから、この頭でいられるほうが嬉しい。」
それは彼女の本心の確かに一部だろう。彼女も会長に本当に帰依しているのだとわかって西武池袋の心の一部が
ほっとする。それと同時に、昨夜の一言が髪を切らせたのではないかと心配になる。西武池袋は女に興味がないとい
っても、女がどれだけ髪を大切にするかはわかっているつもりだったから強要する気は欠片もなかったのだ。
「・・・変、かな?」
「・・・似合っていると思うぞ。」
西武新宿の顔立ちにショートの金髪も似合っていて、初めて西武新宿の顔がかなり整っていると気付いた。
(男ならなぁ、惜しい。)
女性を性的対象として見られない西武池袋は心中で嘆息をつく。これで男なら完璧なのに、なんて他人が聞いたら卒
倒しそうな悩みに心はぐるぐると回る。
それから何年もたって、青いコートと金髪にすっかりなじんだ西武新宿と、そんな西武新宿をすっかり見慣れた西武
池袋の仮面夫婦は、仮面夫婦なりにうまくいっていた。互いに嫌いあっているわけでもなく、セックスをするでもなくただ
寝室を共にする同僚といったところだった。
その調和を砕く悲劇が仮面夫婦に訪れた。西武全域を包み込んだ悲しい日は、西武新宿よりも西武池袋をさらに悲
嘆の深遠へと連れ込んだ。
「あまり塞ぎこんでも毒だ。」
西武新宿があまり食事を取らない西武池袋のためにお茶と和菓子を持ってきた。小さいけれどカロリーがあって食べ
やすいものをとの彼女の気遣いだが、西武池袋は軽く首を振って断る。
「私もあの方を追えたら・・・」
薄く日の差し込む書院造り風の和室で、西武池袋は切ない希望をもらす。和紙から透けるやわらかい日差しは対照
的に温かく爽やかだった。
西武池袋は他路線に弱音をはかない。西武鉄道筆頭本線格路線として常に堂々と他を率いる。それが、西武新宿
の前では弱い自分をさらけだした。夫婦ではないけれど、まるで夫婦のようだった。
「追ってしまっては、もう走れない。それに、私らは自殺の仕方もわからない。」
西武新宿のしんしんと落ち着いた声が西武池袋の中に響く。
「それもそうだな・・・」
西武池袋のあまりに沈んだ様子を見て、西武新宿は不安になった。西武新宿らも当然沈んでいるのだが、西武池袋
とは非にならない。
「なあ、西武池袋。一時間だけ、何があっても目を瞑ってじっとしていてくれないか?」
「・・・なぜ?」
「いいから、好きなようにさせて。」
緩慢な動作で口付けたときも、西武池袋は逃げなかった。ただ、くまの酷い目で西武新宿を非難するように見つめ
る。
「私は、女に興味がない。」
「知ってる。でも、俺は女じゃないみたいな体だし。」
長い同居生活の中で西武池袋が西武新宿の裸体を見たことは何度もあった。華奢な体には女性らしい肉が少なく、
まるで少年のように細い体であるのは西武池袋もよく知っていた。
「だからいいじゃん?好きな男のことでも想像してたら?」
西武新宿が西武池袋のコートに手をかける。勝手知ったるつくりのコートは複雑なボタンのわりにいとも簡単に脱がさ
れて白いワイシャツがあらわになる。
「本当に嫌なら逃げればいい。力では絶対に勝てないから。」
その一言はずるい、やはり女はずるくて賢いと西武池袋は思った。力で勝ってしまうのならば、余計手を上げられな
いではないか。押さえつけて逃げるだけでも怪我をさせてしまうのではないかと心配するほど、西武新宿の体は細い。
「・・・こういうことは、男がしても女がしても同じだろ?」
温かい口内で包まれた肉棒が、理性に反して生理反応で興奮するのを脳裏で止められない西武池袋は、頭の片隅
で冷静に女でもいけたのかと振り返っていた。ならもっと早く西武新宿を抱けばよかったとか、しょうもないことを妙に冷
静に考えるのだ。
西武新宿の口淫は幼い風貌に不釣合いなほどうまくて、あっさりと西武池袋は精を吐き出した。それを飲み干して西
武新宿は更に舌を這わす。
「・・・もういい。よかった。」
西武新宿の頭に軽く手を置いてなでると、西武新宿は一度口をはずして顔を上げた。
「まだ。まだぜんぜん一時間たってない。」
また熱が集中するのを感じて、西武池袋は西武新宿から手を離し、体を支えるように後ろに置いた。
「西武池袋のこと、好きなんだ。」
フェラチオした口でキスを求められて、西武池袋は拒まなかった。唾液と精液でてらてらと光る唇を名前の知らない生
き物を見るような気持ちで見つめた。
「好きなのに、ね。」
ゆっくりと体を沈める西武新宿がアナルを使っているのにすぐ気付いたけれど、先程の約束を今度は守って西武池
袋は何もいわず、されるがままに受け入れる。熱くて狭いそこは女も男も大差がなかった。
セックスが終わったあと、息を荒げた西武新宿は早々に服を着ようとした。
「何をあせっている?」
「何でって・・・嫌だろう?私みたいなのがそばにいたら。」
化粧がぼろぼろになっても、西武新宿の整った顔は安っぽさをみせない。薄明かりの中で全裸の西武新宿は女でも
男でもない生き物のように思える。
「寝るぞ。疲れた。」
押入れから布団を引きずり出して西武池袋が乱雑に急いで敷く。その様子を西武新宿は驚きを隠せず、ただ呆然と
見ていた。
「・・・早く来い。」
「あ、うん。」
一枚だけ敷かれた布団に二人で入る。小さくはない布団だけれど、二人で入るとなるとくっつく他なく。
「どうした?急に。」
まだ西武池袋の顔を見れない西武新宿は、西武池袋の胸に顔をうずめるようにして聞いた。
「女は、こういうのを喜ぶものなんだろう?」
さあ?人それぞれじゃん?といおうとして西武新宿は飲み込んだ。可愛くない照れ隠しよりも、黙ってしがみ付くほうが
今の心情を伝えるにはよいと思ったのだ。
結局恥ずかしくて西武新宿はその後何もいえなかったのだけれど、西武池袋の規則的な寝息が聞こえ始めてようや
く安心したのだった。
西武池袋と西武新宿の関係の変化に真っ先に気付いたのは西武拝島だった。
「池袋がついに新宿を自分の女にした。」
不機嫌そうに話す西武拝島に、西武国分寺は不思議そうな顔をする。
「はあ?池袋は男にしか興味ないだろう?」
「そうだけど、あれは絶対そう。」
「別にべたべたしてるわけじゃないし・・・」
「見ればわかるだろうが!あの間!あの空気!あれは一発やった雰囲気だよ!」
持っていた茶碗を机に叩きつけたが、中身は空だったので飛び散らなかった。空の茶碗に西武国分寺が熱いお茶を
急須から注ぐ。
「いいじゃん、夫婦だったんだし。丸く収まって。」
「お前はそうだろうけどよ、俺はどうすりゃいいんだ・・・」
「いやー、うちの妹が悪いな。」
「お前は黙ってろ。」
はぁ、と西武拝島が大きなため息をつく。
「まあ西武池袋が元気になったし、おめでたい話題で少し気持ちも明るくなるし、めでたしめでたし、じゃね?」
西武拝島は睨むようにバカにしたように西武国分寺を見上げた。
「めでたし、めでたしね。」
西武新宿が幸せそうに笑っているのは西武拝島も不服ではない。それが、自分に向かって出ないことだけが少し切
なかった。
(7月22日)