同じ匂い
所沢の会議室に全員が揃うとかなり煙い。窓を全開にして換気をしなければ部屋が真っ白になってしまうので、少し
肌寒くても無理して開けていた。
「思ったより早く終わったな。コーヒーもう一杯飲むか。」
ん〜と体を伸ばしてから西武秩父は立ち上がる。コーヒーをいれるのは誰と決まっているわけではないけれど、西武
秩父は一番若手であることに気を使って率先していれるようにしていた。
「俺も手伝うよ」
小走りで西武秩父に追い付いた拝島と二人で給湯室のコーヒーメーカーをセットする。ゴポゴポと音をたてるコーヒーメ
ーカーの仕事は遅いので、灰皿を取り替えてこようかと、西武秩父は戸棚を漁った。
「なにか探し物?」
「あぁ。灰皿を…」
「いいよ、そんなとこまで気を使わなくって。みんな必要なら勝手にかえるから。」
「でも…」
「僕がいいっていったんだからいいんだって。あ、それよりお菓子食べる?」
「え、いや俺はそんなに…」
「そうなんだよね、僕もだよ。あいつらも食べないだろうし。せっかくの頂き物だから女子社員にあげようかな。」
包装紙にくるまれた菓子箱は、どうやら西武拝島宛だったらしい。ひとことメモを貼って給湯室の棚に入れたあと、よ
うやく沸いたコーヒーをカップに注ぐ。入れたてのコーヒーの匂いと、体に染み付いたタバコの匂い。会議の匂いだと西
武秩父は思った。
「ねぇ、西武秩父のタバコってなんだっけ?」
唐突な拝島の質問に大して気にせず西武秩父は「これ」とポケットに入っていた箱を見せた。
「ふぅん。そう。それはいいけど、それじゃない匂いをさせてるのは危ないね。隠したいことを隠せてないよ?」
にやりと笑う西武拝島は食えない男で、ようやく気付いた西武秩父は言葉を失ってうなり声を出す。
「あ〜…」
「僕はその匂い、別に嫌いじゃないけどね。鼻のいい奴に知られたら面倒でしょう?」
自分のカップにミルクを入れてる西武拝島はお盆を持って給湯室を出る。
「僕は応援してるよ。ただ…かれは西武の人になれないから残念だね。」
さすが、年の功だけあって西武池袋や西武新宿より一枚も二枚も上手だなぁって思ってから、西武秩父は自分のコー
トの匂いを確認したが、秩父鉄道のホープの匂いが少しするような気がした。
今度からは同じホープにしてしまおう、そうしたらわからないし、と若い浅はかさで甘ったるいことを考えた西武秩父
は、ゆるんだ顔をごまかすために給湯室でタバコに火をつけた。
('09.11.11)西武有楽町が来る前と思ってください。