会議の場で、二人は不機嫌に相対していた。グループ同士、仲がいいとは言いがたい中で共同企画を成功させるに は、メイン業務のメイン路線であり会社の顔といっていい二人の妥協と協力にかかっていた。 東急の本社ビルの高層階にある会議室の大きな窓からは渋谷の街が一望できる。あのド田舎だった渋谷をここまで 成長させた東急の手腕を評価せざるを得ないとわかりつつ、西武池袋は東急を素直に受け入れることに難儀してい る。 田園都市は重い口を開き、窓の外を眺めていた西武池袋に声をかけた。 「私と組む覚悟は出来たか?堤の犬。」 西武池袋はやんわりと微笑む。気を抜けば牙を向けてしまいそうな心を押さえつけて、この場に期待を託した社員達 のために罵倒を飲み込む。 「犬など恐れ多い。私はあの方の夢を繋ぐ糸の切れ端になれれば十分だ。お前こそ、我が西武の礎になる覚悟は出 来たのだな。」 は、と田園都市が笑う。何をいっても受け流す営団や東武の連中とこいつは違うと西武池袋はよく知っていて、それ 以上西武の素晴らしさを語ることはやめた。 「流石は堤に魂を売った奴は違うな。毛嫌いしていた東急とでさえ、中華街乗り入れのためなら手を組むくらいだから な。」 西武池袋は田園都市にあまり興味がない。東急は嫌い、それは揺るがないが、しかし。 「西武の利益の為ならば、私の意思など路傍の石より些末なものよ。」 田園都市は初代の堤を思い出して忌々しげに顔を歪めた。どうにも相容れないと思っていたのに今こうして合同企画 をする日が来るなんて。 「時代は変わるもんだな、堤の犬。」 先ほどと同じように呼ぶと西武池袋は怒らずに「そうだな」と答えた。 「いつまでも国鉄と営団ばかりに美味しい思いをさせるものか。」 それは西武池袋の個人的苛立ちだが、田園都市も十分に頷けるものだった。私鉄最大手の東急が未だに国鉄を越 えられないことも、基本的に乗り入れしなければ山手の内側に入れないことも、メトロに新線が出来たことも、何もかも 気に入らない。 「・・・西武池袋、東と西でもっと本格的に組もう。あの憎たらしい新線を飛び越えて。」 田園都市が差し出した手を、西武池袋は握った。田園都市はぎゅっと西武池袋の手を握り、華奢で細いことに驚く。 西武池袋はたっぷり眉間にシワをよせ、しかしぎゅっとその手を握り返した。 「もし、それが会長の御為になるというのならば、貴様にいわれずともそうするさ。」 勇壮な覚悟を返す華奢な手は、可哀想に少し震えていた。 (2010年5月24日) 東急と西武で合同ハイキングが企画されてからずっと考えてたネタ。 ぜひ副都心を飛び越えて田都×西武池袋もありにしてもらいたいです。 そして田都もたいがい五島を崇拝してると思います。 |