私を殺してそれからちゃんと一人で死ねるのかの続編となっています。
が、単独でも読めます。むしろ単独かもしれません。

リクエストNo.5の二作目となっています。

大人の女性向けで、有楽町×西武池袋です。





















リクエストNo.5 もう一つの方 生きる方は如何


















 二人でのんびりと過ごす午後。
 ごろりと転がって、互いに勝手気ままに好きな本を読み、好きなときに食事をし、好きなときにセックスをする。昼近く
に起きた休日を二人は贅沢に無駄遣いしていた。
 「なー、のど渇いた。」
 「冷蔵庫にコーヒーがある。」
 「麦茶は?」
 「ない。昨日買わなかっただろうが。」
 「そうだったっけ?」
 「そうだった。」
 ソファに体をうずめて本を読む西武池袋は本から目を一度も離さず答えた。












 

 西武軍団所有の軽井沢の別荘に有楽町が誘われたのは初めてだった。
 そもそも二人きりの旅行が初めてで、それだけでも有楽町は新しいパンツをそろえたり、何を着ていこうか悩んだり、
旅行に行く前からメトロの各路線があきれ果てるほど浮かれていたのだ。
 「暑いね。」
 ぱたぱたとウチワで仰ぎながらフローリングに寝そべる有楽町は火の入っていない暖炉を見る。本格的なそれは熱く
ないのに暑くなる。
 「昔は涼しかったんだぞ?夏でもこんなに暑くなったのはここ十年くらいの話だ。」
 「十年ねー・・・」
 十年の重みはそれぞれまったく違う。そんなわかりきったことをいまさら口にするのは憚られたので有楽町は賢くも口
にしない。
 「コーヒー入れてくる。」
 「私の分もだぞ。」
 「わかってる。」
 リビングの隣にあるキッチンで冷蔵庫を開けると、西武池袋の言ったとおりアイスコーヒーが一本だけ入っていた。
 氷とアイスコーヒーを注いだグラスを二つ持って西武有楽町のソファの隣に座り込む。
 「どーぞ。」
 「ああ。」
 コーヒーを受け取ろうとした西武池袋はさっきとかわらず、本から目を離そうとしなかった。
 厚い西武池袋の本にはブックカバーがかかっていて何の本かわからない。
 彼は意外とデートに仕事を持ち込む男ではなかった。なので、その本は鉄道でも経営でも不動産でもなく、仕事とはま
ったく関係のない本なのだろう。
 「何の本読んでるの?」
 「哲学の本。読むか?」
 ほら、と開かれたページにはよくわからないカタカナが沢山並んでいて、難しい本はあまり読まない有楽町にはまった
く興味をそそられないものだった。 
 「・・・いい。それより、コーヒー。」
 「ん。」
 本に再び目を落として手を開いたり握ったりする西武池袋の仕草に、グラスを渡して欲しいのだとわかったが、有楽
町は構ってくれない西武池袋に少しだけふてくされてちょっとしたいたずらをした。
 西武池袋がグラスを握る手に力をこめる一瞬前にグラスを話す。
 ソファから外へ伸びた手から落ちたグラスはフローリングに落ちて硬い音を立てた。
 幸い、プラスチック製なので割れることはない。こぼれたコーヒーをタオルで拭き、ソファに飛び散った飛沫も拭いた。
しみはないようだった。
 「・・・わるい。」
 「謝るなんてらしくない。それより、これでコーヒー終わっちゃったから買い物にいかない?今晩の食べ物もないし。」
 「そうか、なら車を出す。」
 「俺が運転するよ。」
 車の鍵をテーブルの上からとって、スーパーに向かった。
 近所のスーパーといっても車でそこそこの距離はある。本来なら御用聞きが回っていた地域だろうが、今は買い手が
つかずそのままになっている別荘もあって、往時を忍ばせる寂しいところもあった。
 西武池袋はもっとも西武色に輝いていた軽井沢を思い出しては時折ため息をついた。















 夕飯は結局作るのが面倒になって外食で済ませた。
 西武池袋は作るといったのだが、それでは休暇でせっかくきた意味がなくなってしまうし最後の夜なのだから奮発して
もいいじゃないかと有楽町が主張したからだった。
 結局冷たい飲み物とビールとおつまみを買って帰ってきた二人は、またソファでのんびりするだけだった。
 西武池袋の愛用する一人がけソファに有楽町のスペースはない。けれどかわりに、大きいソファは有楽町専用となっ
ていたので全身を乗せて横になった。
 時折有楽町は体を起こして西武池袋のグラスにビールを継ぎ足す。
 テレビを見ながら、とくにこれといった話もせず他愛もない話を続ける。今日も暑かったね、明日は帰る前にお土産を
 買いに行こうか、明日車内でなんのCDをかけようか、などなど。
 「そろそろ寝るか、明日はそこそこ早く起きないといけないし。」
 あくびをしながら体を伸ばした西武池袋はゆったりとした足取りで寝室に向かう。
 それを、有楽町はあわてて追いかけた。あわてる必要なんてないのだけれど、せっかくの最後の夜に一人先に眠ら
れてはたまらないと思ったのだ。
 後姿にしがみ付くように抱きつくと、西武池袋は立ち止まって振り返った。
 「なんだ?貴様ももう寝るのか?まだ起きててもいいぞ。」
 「一緒に寝たいじゃん。」
 西武池袋もまんざらでなく笑った。
 それで、有楽町はベッドまでもうすぐだというのにその場で押し倒して服に手をかけた。
 今朝もセックスしたばかりだし、溜まっているわけではないけれど、西武池袋の匂いを近くで感じるだけでも、肌に触
れるだけでも勃起した。
 セックス時以外はあまりくっつかず離れているからかもしれないけれど、触れるだけでこれだけ興奮できるのならば、
大事にとっておいたほうが楽しいとも有楽町は思うのだ。
 最低限服をくつろがせて挿入する。連日セックスを繰り返しているから、あまりほぐさなくても西武池袋は痛いといわな
かったし、すぐに声を漏らし始めた。
 足を開いた西武池袋はいつも恥ずかしそうな顔をする。
 有楽町が初めての男というわけでもないし、有楽町とももう何回セックスしたのかわからないくらいだというのに、
 「池袋はいきやすいから一度掃除しやすいところで出しておかないと。」
 フローリングの床に散った精液を有楽町が片付ける間、息の上がった西武池袋は座ってその様子を見ていた。
 西武池袋の経験はけして少なくない。色々な男とやってきて、もっとテクニックのある男やもっと大きな男や持続力の
ある男はたくさんいたのだけれど、西武池袋はなぜか有楽町が一番いいのだ。
 頭の中が真っ白になってただただ相手が欲しいという気持ちを有楽町で初めて知った。
 セックス中は、有楽町がずっと年下で西武池袋が初めての男だったとか、西武池袋のプライドに差し障る問題も全部
どうでもよくなってしまう。全てがもう、どうでもよくて、まだ勃起したままの有楽町のモノに目をやる。
 「今度はベッドでする?」
 こくこくとうなづく西武池袋を抱えて有楽町はベッドに移動する。
 背丈のわりに細くて軽い西武池袋は有楽町でも持ち上げられる。首に手を回してしがみ付いてくる仕草は普段では絶
対にお目にかかれない可愛らしい仕草だった。
 ベッドに西武池袋を下ろすとき、西武池袋が衝撃を想像してきゅっと目をつぶる。彼のそういう小さな仕草まで覚えて
いるのは自分だけだろうと有楽町は自負していて、閉じたまぶたにキスを落とす。
 「西武池袋とこうしていると、全部どうでもよくなっちゃうよ。」
 全部どうでもよくなってしまっている西武池袋にとってほめ言葉だった。
 ぼんやりと酔ったような目で有楽町を見上げて、抱きつく。あがった互いの体温だけが世界の全てで、他のことがはさ
みこむ余地は一切ない。
 大好きな会長も、今は一瞬だけ遠くに離れてしまっていた。彼は会長を遠くに置かなくては快楽にも没頭できない可
哀そうな人間だった。
 彼の中では何物も会長と共存できない。二面的な彼のもう一つの側面が表にでて、有楽町の動きひとつひとつにみ
だらな反応を示す。
 「すっごいぐちゃぐちゃ・・・音、聞こえる?」
 突かれるたびに叫ぶような縋るような声を上げる西武池袋の痴態は美しい、と有楽町は思う。ほんのり涙を浮かべて
有楽町、有楽町といい続ける彼はいつもの彼とはまったく別物で、こうしているときは誰よりも可愛い。(もっとも、有楽
町はいつもの電波な彼だってだれよりも可愛いと思っている、思い込んでいる。)
 西武池袋が背中に爪を立てるのはわざとだろうとふんでいる有楽町は、背中の痛みがきつくなってきたところで性器
を抜き出して、西武池袋の顔に精液をかけた。端整な顔を汚すとき、西武池袋もまた射精して、有楽町と西武池袋自
身の体を汚した。
 変態行為といわれても仕方ないかもしれないけれど、互いにこういうセックスが好きなのだから別にいいだろう、とは
二人がだした結論であった。














 終わってしまえば先ほどまでの興奮はどこへやら。二人で淡々と片づけをして、裸のままベッドに転がる。くっつくと汗
ばんだ体同士愉快とはいいがたいが、それでも触れ合う肌は気持ちい。
 こうしているときだけ西武池袋は安心して眠れる。セックスで疲労した体をセックスした相手に抱きしめられて、ようや
く安眠できるのだ。























 

 休暇の最終日、車に荷物を詰め込んで、お土産も詰め込んで二人は出発する。
 結局微妙な時間に起きた二人は支度をしたりお土産をかったりで出発は夜になってしまった。
 帰り道の高速道路は二時間程度。だいぶ疲れていたが運転する有楽町に悪いからと西武池袋は眠い目をこすって
起きていた。
 「ちょっとパーキングエリア寄ってもいい?」
 「うん、私も何か飲み物買う。」
 途中にある大きめのパーキングエリアは上りと下りが階段で繋がっていて、人はどちらもいけるようになっている。
 「ちょっと休んでもいい?アイス食べようよ。」
 「私はコーヒーがいい。」
 ベンチに座って、有楽町がアイスを食べている横で西武池袋がコーヒーを飲む。長野県の夜は涼しくて、うだるような
東京の暑さを思い出すと、休暇が終わるのが残念になる。
 「あのさ、こんなところでなんなんだけど、ちょっと手を出して?」
 有楽町がポケットに手を入れていうので、西武池袋は何を予想するでもなく、言われるがままに手を差し出した。
 「いつ渡そうか、ずっと悩んでたんだけど。勢いつけないと渡せないね。」
 テレながら有楽町は西武池袋の指にそれをはめた。
 西武池袋の細い指に映える細いシルバーの指輪は、有楽町が旅行前に何回もショップ巡りをして買ったものだった。
 サイズもぴったりだったし、かなりほっとしてから有楽町は西武池袋を見た。一応、喜んでもらえると思って買ったもの
だった。
 「・・・・・・気に入らなかった?」
 「そんなことはないのだ。そうじゃなくてだな。」
 西武池袋が手の甲で目をこすった。綺麗な見た目に反して男らしい仕草を垣間見せる人だった。
 「あんまり嬉しいと涙が出るのだな。」
 困ったようにちょっと笑う西武池袋が、どれだけ喜んでくれているのかようやく有楽町にも伝わって、勢いでぎゅっと抱
きしめた。
 男同士で抱き合って、後ろ指でさされているんじゃないかな、なんて常識人の有楽町は思わないでもないけれど、今
はこうしないといけないと思ったのだ。彼を繋ぎとめておくためにも。





















 車は所沢インターを降りて、西武池袋の家に向かう。
 先ほどから照れくさくて、二人はあまり話していなかったけれど、無言だからといって気まずいわけではない。ラジオを
聴きながら残りわずかなドライブが本当に終わる。
 家の前に車を止めて西武池袋の荷物を下ろして、帰るために車に一人で乗ってエンジンをかけるとき、有楽町は最
後に西武池袋の方を振り返った。
 控えめに手を振る西武池袋の左手にきらきらと反射するものが見えた。
 それは幸せの光のようだった。










































(タイトルは東京事変「入水願い」の歌詞から。
リクエストNo.5の補足です。会長様をないがしろにしちゃいましたけど・・・西武池袋は有楽町がいたら幸せなんです。という感じです。)