(2013.6.18)副都心*西武池袋 たましい(副都心×西武池袋) 今、副都心はお風呂を洗っている。風呂トイレ別で、割合広いお風呂は副都心のお気に入りの場所だ。浴槽を洗い、 床を洗い、鏡まできっちり洗ってからお湯をためはじめた。ボボボとお湯が出はじめて、蒸気が浴室中を回っていく。足 と手を簡単に拭いて、リビングに戻ると西武池袋が食器を洗っていた。 「お水につけておいてくだされば、洗いましたのに。」 マグカップをゆすぎながら、ふりむきもせずに行けは返事をする。 「マグカップだけなのだから、貴様が風呂を洗っている間にちゃちゃっとやっとけばいいだろう。」 外で食事をし軽く飲んで、家乙いてからコーヒーを一杯飲んだ。西武池袋と副都心の、もはや落ち着いてきた関係の よくある一幕だ。 「西武池袋さん、お湯がたまったらお先にどうぞ。」 「うむ。入浴剤は何がいい?」 「バラにしましょうか。この前買ってきた花びら入りの入浴剤があるんですよ。」 「少女趣味だな。」 西武池袋は少しお酒が入っていることもあって、くすくすと上機嫌に笑っている。 「あなたが喜ぶかもと思って買ってきたんですよ?」 「わかってるよ、ありがとう、副都心。」 飲んだ西武池袋はいつもよりちょっと優しくて、いつもなら言わない感謝の言葉をかけてくれる。副都心にはそれがと ても嬉しい。 ピピピ、とお湯がたまった音が鳴った。 「あ、たまりましたね。」 「それじゃあ、お先に。」 「どうぞー。」 西武池袋がお風呂に入っている間に、副都心は部屋の片付けを簡単にして、後はテレビを見ながらのんびりと待つ。 「あがったぞ。あの入浴剤いい香りだったよ。」 「それはよかったです。それじゃあ、僕お風呂入ってきちゃいます。ビール、冷凍庫に入ってますよ。」 「悪いな。」 西武池袋はお風呂上りにきんきんに冷えたビールを好む。副都心はお相伴には預からず、すぐにお風呂場に向かっ た。 西武池袋が入った後の風呂場の空気はまだ暖かくて、湿気がみちみちに漂っている。 副都心はいつも通り髪を洗ってから体を洗い、それから湯船につかった。お湯からはバラのいい香りが漂っている。 肩までしっかりとお湯に浸かり、ゆったりしてから、副都心はじゃぼんとお湯にもぐった。お湯の中で口を開けば、バラ の香りのお湯が副都心の口内に勢いよく入り込んでくる。それを、副都心はそのまま飲み込んだ。 副都心は西武池袋が好きだ。好きで、好きで、たまらない。食べてしまいたいと冗談でなく思えるほどに、副都心は西 武池袋を求めてやまないのだ。 あるとき、西武池袋の入った後のお風呂のお湯を冗談半分で口に含んでみて、言葉に出来ぬ興奮に包まれた。残り 湯はけしてきれいなものではない。しかし、きれいでなくしているものは、西武池袋の汚れであったり、体から出ているも のなのだ。口の中を西武池袋の何かが入り混じったお湯で満たし、ごくりと飲み込んだ。咽喉から食堂を通り、西武池 袋の一部は副都心の体内に溶け込んでゆく。今飲み込んだものの中には、汚れだけではなく、美しい表現でいえば 「魂」の一部というべきものが溶け込んでいる気がした。 だから、副都心はいつも西武池袋のあとに入浴する。 西武池袋はもちろんそんなことは知らない。いつも先に入って悪いな、なんて思っている。 十分に西武池袋のエキスを堪能した副都心はお風呂を出て、西武池袋そのものとベッドに入る。年寄の西武池袋は泊 まりに来たからといって、必ず体を求めるわけではない。副都心は当初物足りなかったが、お湯を飲む興奮を覚えてか らは気にならなくなった。魂の一部を飲み込んだ副都心は、既に西武池袋の一部でもあるのだ。そう思えれば、己の手 だって西武池袋の手だと思える。 そうなってから、二人の関係は以前にも増して良好になった。西武池袋は西武池袋で、副都心は西武池袋なのだ。 「髪を乾かさなかったのか?風邪を引くぞ。」 「西武池袋さん、乾かしてくれません?」 「子供のようだな。」 機嫌のよい西武池袋は副都心の髪にドライヤーの風をあてる。洗面台の鏡には、もちろん西武池袋と副都心が映っ ているのだが、副都心は西武池袋が西武池袋の髪を乾かしている光景を妄想した。二人の西武池袋が戯れる様子 は、自分なんていなくてもいいと思えるほど、心地よい光景だった。 |